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肩の痛み、その正体は一つじゃない。関わる「複数の組織」を知ると、回復が変わる
〜なぜ肩の痛みは長引くのか、再発するのか。体の構造から読み解く〜
はじめに|「肩が痛い」のに、なかなかよくならない理由
朝、腕を上げようとしたら鋭い痛みが走った。 着替えのときに肩がつかえて、思うように動かせない。 夜中に痛みで目が覚め、翌朝もだるさが残る。
肩の痛みは、多くの人が一度は経験するありふれた症状です。しかし「ただの肩こりだろう」と放置したり、湿布や安静だけで様子を見ていたりするうちに、じわじわと慢性化してしまうことは珍しくありません。
なぜ、肩の痛みはこれほど長引きやすいのでしょうか。
その答えの一つは、肩という部位の構造的な複雑さにあります。肩関節のまわりには、関節包・滑膜、靱帯、筋肉(腱板)、筋膜・脂肪体、末梢神経、循環系など、さまざまな組織が密接に絡み合っています。「肩が痛い」という一言の裏に、複数の組織が同時に関わっていることが非常に多いのです。
この記事では、肩の痛みに関わる主要な組織を一つひとつ丁寧に解説し、なぜ複数の組織に目を向けることが大切なのかを、日常生活の症状と結びつけながらお伝えします。
肩の痛みとひと口に言っても、種類はさまざま
まず、「肩の痛み」という言葉でひとくくりにされやすいですが、実際には様々な状態が含まれています。代表的なものを整理しておきましょう。
急性の痛み
- 転倒や衝突による打撲・脱臼・腱板断裂
- 野球やテニスなど投球・スイング動作後の急激な損傷
- 重い荷物を持ち上げた瞬間に感じる激痛
慢性・じわじわ型の痛み
- 四十肩・五十肩(肩関節周囲炎):腕が上がらない、夜間痛がある
- 腱板損傷(部分断裂):特定の角度で痛む、力が入りにくい
- 肩こり・頸肩腕症候群:首から肩にかけての重さ、だるさ、しびれ
再発・繰り返し型の痛み
- 「一度よくなったのに、また同じ場所が痛む」
- スポーツ後に繰り返す肩の炎症
- 姿勢が崩れるにつれて慢性化していく痛み
これらはすべて「肩が痛い」という症状ですが、それぞれに関わる組織が異なり、対処法も変わります。次の章では、肩の痛みに関与する主要な組織を一つひとつ見ていきます。
肩の痛みに関わる主要な組織|複数の”原因”が同時に存在する
① 関節包・滑膜(かんせつほう・かつまく)|「肩が固まる」「夜中に痛む」の主役
組織の役割 関節包は、肩関節全体を包む袋状の組織です。その内側には滑膜(かつまく)と呼ばれる薄い膜があり、関節の動きをなめらかにする「関節液」を分泌しています。
損傷・炎症が起きると 関節包が炎症を起こして肥厚(厚く固くなること)したり、滑膜が過剰に炎症反応を起こすと、関節の動きが著しく制限されます。これがいわゆる「肩が固まった状態(拘縮)」であり、四十肩・五十肩の本質的な原因の一つです。
日常生活での症状
- 腕を頭の上に上げようとすると引っかかる感じがある
- 洋服を脱ぎ着するたびに肩がつかえる
- 夜中に肩の深部がうずくように痛んで目が覚める
- 横向きで寝ると痛みが増す
関節包・滑膜の炎症は、急性期(痛みが強い時期)には安静と適切な処置が必要です。しかし炎症が落ち着いた後も、拘縮(固まり)が残ることが多く、その後のリハビリが非常に重要になります。
② 腱板(けんばん)・腱|「力が入らない」「特定の動きで激痛」の主役
組織の役割 腱板(ローテーターカフ)とは、肩甲骨と上腕骨をつなぐ4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の腱が集まった構造です。肩関節を安定させ、腕を持ち上げたり回したりする際の”軸”として働きます。
損傷・炎症が起きると 腱板が部分的に傷ついたり(腱板損傷)、完全に断裂したりすると(腱板断裂)、肩の動きに大きな支障が出ます。特に棘上筋腱は断裂が多く、肩を横に挙げるときに強い痛みや力抜けを起こします。
日常生活での症状
- 腕を横に上げると、ある角度(60〜120度あたり)だけで痛みが出る
- 荷物を持ち上げようとすると力が入らず、スッと抜けるような感覚がある
- 肩を動かすときにゴリゴリ・ザリザリと音がする
- 高い棚のものが取れなくなった
腱板は加齢によって自然に変性(劣化)しやすい組織です。40代以降は特にリスクが高まり、目立った外傷がなくても断裂が進行していることがあります。腱板損傷を放置すると、周囲の筋肉や神経にも影響が広がっていくため、早期の評価と対応が大切です。
③ 靱帯(じんたい)|「ゆるみ」「不安定感」「捻挫後の痛み残り」の主役
組織の役割 靱帯は骨と骨をつなぐ帯状の組織で、関節が過度な方向に動きすぎないよう制御する役割を担います。肩関節には烏口上腕靱帯(うこうじょうわんじんたい)や上腕骨頭の周囲を支える複数の靱帯があります。
損傷・炎症が起きると スポーツでの転倒や衝突、腕を伸ばした状態での強い衝撃などで靱帯が損傷すると、関節の「ゆるみ」や不安定感が生じます。また靱帯自体に炎症が残ると、関節包の拘縮とあいまって痛みが長期化することがあります。
日常生活での症状
- 腕を後ろに引いたとき(水泳の準備動作や荷物を後ろ手で取るとき)に痛みや違和感がある
- 肩に「ガクっ」とした抜けるような感覚がある(反復性肩関節脱臼の可能性)
- 捻挫や打撲後に「なんとなく肩が不安定な気がする」という感覚が残る
靱帯の損傷は、レントゲンには映らないため見逃されやすい組織です。「骨には異常がない」と言われても症状が続く場合、靱帯や関節包の問題が残っている可能性があります。
④ 筋肉・筋膜(きんにく・きんまく)|「肩こり」「重さ」「だるさ」の主役
組織の役割 肩まわりの筋肉は、腱板だけでなく、僧帽筋(そうぼうきん)・三角筋・前鋸筋(ぜんきょきん)・菱形筋(りょうけいきん)など多くの筋肉が肩の動きと安定性を支えています。筋膜はこれらの筋肉を包む薄い膜で、筋肉同士の滑走(滑らかな動き)を助けています。
損傷・炎症が起きると 長時間のデスクワーク、スマートフォンの使いすぎ、不良姿勢などによって筋肉が緊張・疲労すると、筋膜が固まり(筋膜の癒着)、肩まわり全体の動きが悪くなります。また筋肉の過緊張は血流を妨げ、老廃物が蓄積されることで慢性的な重さやだるさにつながります。
日常生活での症状
- 首から肩にかけてズーンと重い感覚が続く
- 夕方になると肩が特に張る、だるくなる
- 肩甲骨まわりがこり固まっていて、自分でほぐしても翌日にはまた元に戻る
- マッサージを受けるとその場は楽になるが、効果が長続きしない
肩こりを「筋肉の疲れ」だけと捉えると対症療法で終わりがちですが、実際には筋膜の癒着や姿勢・体幹の問題が根底にあることが多くあります。筋肉・筋膜の問題は、後述する神経や循環系の問題とも深く結びついています。
⑤ 末梢神経(まっしょうしんけい)|「しびれ」「ジンジン感」「腕が重い」の主役
組織の役割 肩や腕を支配する末梢神経は、首の骨(頸椎)から出て腕神経叢(わんしんけいそう)を形成し、肩・腕・手先まで走行しています。これらの神経は、感覚(熱い・冷たい・触れる感覚)や運動(筋肉への指令)を伝える重要な経路です。
損傷・圧迫が起きると 筋肉の緊張や筋膜の癒着、骨棘(こつきょく)などによって神経が圧迫・絞扼(こうやく)されると、しびれや感覚の鈍さ、腕の重さや力の入りにくさが生じます。胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)では、鎖骨まわりで神経と血管が圧迫され、肩から腕にかけてしびれや冷えが生じることもあります。
日常生活での症状
- 腕がジンジン・ビリビリする感覚が続く
- 朝起きると腕や手がしびれていて、しばらく動かすと落ち着く
- 腕を上げていると(洗髪や荷物を持つなど)だんだん重くなりしびれてくる
- 手の細かい作業(ボタン留め、箸操作)がしにくくなってきた気がする
神経の問題は、肩の痛みだけでなく、腕・手・指先の症状として現れることが特徴です。「肩の治療をしているのに、腕のしびれが取れない」という場合、神経への対処が不十分なケースも少なくありません。
⑥ 循環系(血管・リンパ)|「冷え」「むくみ」「回復の遅さ」の背景にある組織
組織の役割 肩まわりの血管・リンパ管は、筋肉や腱・神経に酸素と栄養を届け、老廃物を回収する役割を担います。肩関節の修復・回復プロセスは、血流の質に大きく左右されます。
循環が低下すると 血流不足は筋肉の回復を遅らせ、炎症物質の排出が滞ることで慢性的な痛みや組織の硬化につながります。また肩周辺の筋緊張が続くと、リンパの流れも滞り、腕や肩まわりのむくみ感が出やすくなります。
日常生活での症状
- 肩が冷えやすく、温めると少し楽になる
- 肩や上腕がなんとなくむくんでいる感じがする
- 治療を受けても「治りが遅い」と感じる
- 夏でも肩や首まわりが冷えている(冷房による血行不良も関係)
循環系の問題は単独で現れることは少なく、筋肉・筋膜の緊張や神経の圧迫と合わせて考えることが重要です。生活習慣の改善(適度な運動・保温・水分補給)が、他の組織の回復を後押しします。
なぜ「複数の組織」に同時に目を向ける必要があるのか
ここまで6つの組織を個別に解説してきましたが、実際の肩の痛みにおいて、これらは独立して存在しているわけではありません。
たとえば四十肩・五十肩の場合:
- まず関節包・滑膜に炎症が起きる
- 痛みを避けようとして、肩まわりの筋肉が過緊張する
- 筋肉の緊張が筋膜の癒着を招き、神経を圧迫する
- 血流が低下して、組織の回復が遅れる
- 関節が固まることで腱板にも負担がかかり、二次的に損傷が進む
このような「連鎖」が起きているため、一つの組織だけに対処しても、痛みが繰り返したり、別の症状が残り続けたりするのです。
「肩の痛みが取れない」「再発を繰り返す」という方の多くは、複数の組織が絡み合った状態に、一面的なアプローチしか行われていないケースが少なくありません。
肩の痛みを引き起こす原因・リスク要因
急性期の主なリスク
- スポーツ中の転倒・衝突・投球過多
- 重い荷物を無理に持ち上げた
- 交通事故や転倒による直接衝撃
慢性化・再発のリスク
- 加齢:腱板・靱帯・軟骨の変性が40代以降から進む
- 不良姿勢:猫背・巻き肩・前頭位姿勢(スマートフォン姿勢)による肩関節への持続的負担
- 運動不足・筋力低下:インナーマッスル(腱板)の弱体化により関節の安定性が低下
- 過度な使用・使いすぎ:繰り返しの投球・打撃・水泳などの反復動作
- 冷え・血行不良:血流の低下が組織の回復を遅らせる
- ストレス・睡眠不足:自律神経の乱れが筋緊張を慢性化させる
日常でできるケアと予防|複数の組織を意識したアプローチ
肩の痛みの回復と再発防止には、「どの組織に問題があるか」を意識した多面的なアプローチが効果的です。
① 急性期(痛みが強い時期)のケア
- 無理な動かし方を避け、患部への過度な負担を減らす
- 炎症がある場合はアイシング(15〜20分程度)が有効なことがある
- ただし完全な安静は拘縮を招くことがあるため、痛みのない範囲での穏やかな動きは維持する
② 慢性期・回復期のケア
関節包・筋膜の柔軟性を回復させる
- 振り子体操(コッドマン体操):重力を利用して肩関節をほぐす、四十肩・五十肩の定番運動
- タオルを使ったストレッチ:後方関節包のストレッチに有効
腱板(インナーマッスル)を強化する
- チューブを使った外旋・内旋トレーニング
- ゆっくりした負荷で腱板を活性化させる(高重量は不要)
筋肉・筋膜をほぐす
- 肩甲骨まわりのストレッチ(胸を開く・肩甲骨を寄せるなど)
- 僧帽筋・菱形筋の緊張をほぐすセルフマッサージやフォームローラー
循環を改善する
- ウォーキングや軽い有酸素運動で全身血流を促進
- 入浴(湯船につかる)で肩まわりを温め、血行を改善
- 肩や首の冷やしすぎに注意(冷房対策)
③ 姿勢・生活習慣の見直し
- デスクワーク中はこまめに立ち上がり、肩・首を動かす
- スマートフォンを使う際は目の高さに画面を上げる
- 重い荷物は片側に偏らず、リュック型を活用するなど分散させる
- 睡眠の質を確保する(肩を圧迫しないまくらの高さを調整する)
こんな症状が出たら、早めに医療機関へ
日常的なケアで改善しない場合や、以下のような症状がある場合は、専門機関での診断を受けることをおすすめします。
- 安静にしていても強い痛みが続いている
- 夜間痛が激しく、眠れない日が続いている
- 腕や手にしびれ・感覚の異常がある
- 腕に力が入らない、上げられない
- 肩が「ガクッ」と外れる感覚がある
- 発熱・腫れ・皮膚の発赤を伴う肩の痛み(感染や他疾患の可能性)
- 2〜3週間以上、症状が改善しない
肩の痛みは「様子を見ていれば治る」こともありますが、組織の損傷が進行していたり、複数の組織に問題が生じていたりすることも多くあります。特に腱板断裂は放置すると修復が難しくなるため、「力が入らない」「腕が上がらない」という症状には注意が必要です。
整形外科・リハビリ専門クリニックでは、問診・触診・超音波検査・MRIなどを組み合わせて、どの組織に何が起きているかを総合的に評価することができます。
まとめ|「肩の痛み」は一つの原因で起きていない
肩の痛みは、関節包・滑膜、腱板・腱、靱帯、筋肉・筋膜、末梢神経、循環系——これらが複雑に絡み合って起こるものです。
「湿布を貼っても治らない」「マッサージしても繰り返す」という方は、ご自身の症状がどの組織に由来しているのかを知ることが、回復への大きな一歩になります。
夜に肩が痛む → 関節包・滑膜の炎症 力が入らない → 腱板の損傷 ジンジンとしびれる → 末梢神経の関与 重くてだるい → 筋肉・筋膜・循環の問題
症状のサインを正しく読み解き、関わっている組織に対して適切にアプローチすることが、完治と再発防止につながります。長引く肩の痛みや繰り返す症状がある方は、ぜひ一度、専門家による評価を受けてみてください。
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