FUNA-IN コラム- COLUMN -
「悪いのは スジですか? ホネですか?」
患者さんからは色々な質問をお受けするのですが、
「悪いのはスジですか? それともホネですか?」みたいに
『どこが悪いのか?』を尋ねられることがしばしばあります。
実はこの質問の答えは難しいもので、一概には言えないんです。
ほとんどの場合「スジだけ悪い」とか「ホネだけ悪い」ということはなく、色々と悪いところが混在しているからです。
例えば「腰痛」にも色々あって、筋肉が炎症を起こしたり硬くなることで痛みを出す「筋筋膜性腰痛」もあれば、腰椎の関節(椎間関節という)に炎症が起こる「椎間関節性腰痛」もあれば、骨盤の仙腸関節が痛む「仙腸関節性腰痛」もあれば、腰椎の間に挟まっていてクッションの役割をする椎間板に炎症が起こる「椎間板性」のもの、椎間板がはみ出てくる「椎間板ヘルニア」もあれば、腰椎の変形が起こる「変形性腰椎症」もあれば…と、キリがないくらい挙げられます。
これらは上記のように「混在している」ことが多いため、どこが悪いのか?は一概には言えないのです。
そして、運動器系の障害は、筋肉 → 関節(軟骨、靭帯、関節包、椎間板などを含めて) → 骨 という風に進行することが多く、病態に応じて治療法を変えなければいけません。
少しでも理解していただけるように、できるだけわかりやすく書いてみます。
参考になるのは 「日本顎関節学会」による『顎関節症の症型分類』です。
(※現在は改定されてもう少し複雑な分類になっているのですが、色々な病態を理解するためにはわかりやすいと思います)
まず「顎関節症」とは、
「顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害ないし運動異常を主要症状とする慢性疾患群の総括的診断名であり、その病態には、咀嚼筋障害、靱帯障害、関節円板障害、そして変形性関節症などが含まれている」
と定義されています。
つまり「アゴの関節が痛いというだけでなく、動かしにくかったり動きが悪かったり変な音がするもの」のことで、
その病態は「筋肉の問題や靭帯の問題、軟骨の問題やホネが変形したものなど、色々な種類がある」ということです。
分類はⅠ型~Ⅴ型で、
* Ⅰ型(咀嚼筋障害) → 「筋肉」に問題があるもの
* Ⅱ型(関節包、靱帯障害) → 関節を包んでいる「関節包」や、関節の周りにある「靭帯」の問題があるもの
* Ⅲ型(顎関節内障) → 関節内に存在している「関節円板」に問題があるもの
* Ⅳ型(変形性顎関節症) → 関節が「変形」したもの(骨が変形、軟骨がすり減っているもの)
* Ⅴ型(精神的因子によるもの)
…となっており、これらは放置しておくと徐々に「Ⅰ型からⅣ型へ」進行してしまいます。
(※Ⅴ型は、レントゲンやMRIなどの検査をしても異常がみられない(みつからない?)のに症状がある場合に「メンタル」が関わっているのでは?ということで「精神的因子によるもの」という分け方をされていました。)
理解しておかないといけないのは、
もしⅠ型からⅡ型へ進行してしまった場合は
「関節包」や「靭帯」に問題があるだけでなく 「筋肉」にも問題がある状態 であり、
Ⅳ型まで進行してしまった場合は
「骨が変形、軟骨がすり減っている」だけでなく、
「筋肉」にも「関節包」にも「靭帯」にも「関節円板」にも問題がある状態 ということです。
基本的には、膝や肩、首や腰の関節もアゴの関節と同じ構造をしていますから病態も同じように進行します。
顎関節の中には「関節円板」があり、動かす時の摩擦を減らしたりクッションの役割をしていますが、
膝の関節には「半月板」、背骨(頸椎、胸椎、腰椎)には「椎間板」というものがあり、
関節円板と同じような働きをしていますので、
『半月板を痛めてる』とか、『椎間板ヘルニア』などと言われた場合は
「関節の間にあるものに問題が起きている」という理解で良いかと思います。
厳密性を欠き、尚且つかなり端折った説明をさせてもらいますと、ほとんどの運動器系障害の場合、病態の進行は
「筋肉の問題から始まり、関節包や靭帯など関節の周りの問題に波及し、場合によっては関節の間に挟まって存在している関節円板、半月板、椎間板などがやられてしまって、さらに進むと軟骨も変形して、最終的には骨まで変形する」ということになります。
なので患者さんの状態によっては
「スジが悪い」というワケではなくて、
「スジも、ジンタイもナンコツも、ホネも悪い」という混在した状態になっているワケです。
症状が出てきた時点である程度病態は進行していると考えられますので、人によって割合は違うかもしれませんが
「全部、悪い」ということですね。
ですので治療を組み立てる場合は、その状態に合わせて
「どこをターゲットにするのが効果的なのか?」を考える必要がありますし、
症状が無い(もしくは軽い)からといって放置しておくと
そのうち「全部、悪い」というところまで進んでしまう可能性もあるということです。
(追記)
「腰痛」を呈する疾患も様々であり、筋肉の症状を主体とする「筋・筋膜性腰痛」もあれば、
椎間板の正常位置からの逸脱がみられる「椎間板ヘルニア」
脊髄が通る管の中に石灰化や腰椎のズレ(分離症、すべり症)が起こって痺れや痛みが出る「脊柱管狭窄症」などもあります。
その他、加齢による「変形性腰椎症」というものもあります。
ほとんどの場合、
「筋肉の問題から始まり、関節包や靭帯など関節の周りの問題に波及し、場合によっては関節の間に挟まって存在している関節円板、半月板、椎間板などがやられてしまって、さらに進むと軟骨も変形して、最終的には骨まで変形する」
という事ですから、これらは「全くの別物」ではなく、ある意味同じレールに乗っているものと考えられます。
「単に筋肉が痛い腰痛と思っていたら、そのうち変形にまで進む」という可能性があるということです。
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