脊柱管狭窄症のすべて|長引く腰の痛み、その正体と対策を知る

長年続く腰の痛みや足のしびれに悩まされていませんか?「年のせいかな」と諦めているその症状、もしかしたら脊柱管狭窄症かもしれません。この病気は、中高年の方に多く見られるもので、適切な知識と対策を講じることで、症状の緩和や日常生活の改善が期待できます。

今回のコラムでは、脊柱管狭窄症の基本的な知識から、診断、治療法、そして毎日の生活でできるセルフケアをご紹介し、当院で行なっている治療について解説します。脊柱管狭窄症はあきらめなければならないものではありませんが、出来るだけ早期に適切なタイミングで処置をしなければ手術が必要になることが多い疾患です。この記事を読んで、ご自身の症状を正しく理解し、前向きに病気と向き合うための第一歩を踏み出しましょう。

脊柱管狭窄症とは?

脊柱管狭窄症の概要

脊柱管狭窄症は、背骨の中央にある「脊柱管」が狭くなることで、その中を通る神経が圧迫され、さまざまな症状を引き起こす病気です。正式名称は「腰部脊柱管狭窄症」といい、特に腰椎(腰の部分の背骨)に多く発症します。

加齢に伴って背骨や椎間板、靭帯などが変性し、肥厚することが主な原因です。この病気は、人口の高齢化とともに患者数が増加しており、特に50代以降の中高年男性に多く見られます。多くの患者さんは、腰の痛みだけでなく、足のしびれや歩行困難といった症状に悩まされています。

原因とメカニズム

脊柱管狭窄症の主な原因は加齢によるものです。私たちの背骨は、加齢とともに骨がもろくなったり、靭帯が厚くなったり、椎間板が変形したりします。これらの変化が積み重なると、脊柱管の内側が狭くなり、中を通る神経の束(馬尾神経)や、個別の神経根が圧迫されます。

この神経圧迫が、以下のようなメカニズムで症状を引き起こします。

  1. 神経への血流障害 狭くなった脊柱管で神経が圧迫されると、神経への血液供給が悪くなります。特に歩行時など、神経が活発に働く必要がある時に血流が不足し、痛みやしびれが発生します。
  2. 炎症の発生 圧迫された神経は炎症を起こし、これが痛みや感覚異常の原因となります。

脊柱管狭窄症のリスクファクターには、以下のようなものが挙げられます。

  • 加齢 50歳以上で発症リスクが急増します。
  • 姿勢 長時間のデスクワークや、前かがみの姿勢が多い方は、背骨に負担がかかりやすい傾向にあります。
  • 過去の腰椎疾患 過去に椎間板ヘルニアなどの腰の病気を患ったことがある方も、リスクが高まることがあります。

症状と合併症

脊柱管狭窄症の主な症状

脊柱管狭窄症で最も特徴的な症状は、「間欠性跛行」(かんけつせいはこう)です。これは、しばらく歩くと足がしびれたり、痛くなったりして歩けなくなり、少し前かがみになって休むと、また歩けるようになるという症状です。

その他、以下のような症状がみられます。

  • 腰の痛み 鈍い痛みや、重だるさを感じる場合があります。
  • 足のしびれや痛み 片足または両足に、太ももからふくらはぎ、足先にかけてしびれや痛みが生じます。
  • 排尿障害 症状が進行すると、尿が出にくい、頻尿になるなどの排尿に関するトラブルが起きることがあります。
  • 感覚の異常 足の感覚が鈍くなることがあります。

これらの症状は、立っている時や歩いている時に悪化し、座ったり、前かがみになったりすると楽になる傾向があります。

緊急性の高い症状

以下のような症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。これらは、神経の圧迫が重度であることを示唆しており、放置すると深刻な合併症につながる可能性があります。

  • 排尿や排便のコントロールができない(馬尾神経障害)
  • 両足に強いしびれや麻痺がある
  • 急激に症状が悪化している

診断方法

脊柱管狭窄症の診断は、主に問診と画像診断によって行われます。

  1. 問診・身体診察
    医師が患者さんの症状や生活習慣について詳しく尋ねます。いつから、どのような時に症状が出るのか、間欠性跛行の有無などを確認します。また、神経学的検査(感覚や反射のチェック)も行い、神経の圧迫部位を推測します。
  2. 画像診断
    • MRI(磁気共鳴画像)検査
      脊柱管狭窄症の診断に最も有用な検査です。神経や椎間板、靭帯の状態を詳細に映し出し、脊柱管がどこで、どの程度狭くなっているかを正確に把握できます。
    • CT(コンピュータ断層撮影)検査
      骨の変形や骨棘(骨のトゲ)の状態を詳しく調べることができます。
    • X線(レントゲン)検査
      背骨全体の骨の形や並び、骨の変形などを確認します。

これらの検査結果と、患者さんの症状を総合的に判断して診断が確定されます。

治療法

脊柱管狭窄症の治療は、まず手術をせずに症状の改善を目指す「保存療法」から始められます。保存療法で効果が見られない場合や、症状が重度の場合は「手術療法」が検討されます。

医療機関での保存療法

  • 薬物療法
    痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や神経の血流を改善する薬などが用いられます。
  • リハビリテーション
    腰や腹部の筋肉を鍛えることで、背骨を安定させ、神経への負担を減らすことを目指します。ストレッチや筋力トレーニング、歩行訓練などが含まれます。
  • 神経ブロック療法
    痛みを感じる神経の周囲に麻酔薬やステロイド剤を注入し、痛みやしびれを一時的に緩和します。

手術療法

保存療法で改善が見られない場合や、排尿障害など重度の症状がある場合に行われます。

  • 除圧術
    狭くなった脊柱管を広げ、神経の圧迫を取り除く手術です。背骨の一部や肥厚した靭帯などを取り除きます。最近では、内視鏡や顕微鏡を使った低侵襲な手術も増えており、体への負担が少なくなっています。
  • 固定術
    背骨の不安定性がある場合に、ネジやプレートを用いて背骨を固定する手術です。

手術は、症状の根本的な改善を目指すものですが、術後のリハビリも重要になります。担当医とよく相談し、ご自身の状態に合った治療法を選択することが大切です。

鍼灸院や整骨院でできること

鍼灸院や整骨院は、脊柱管狭窄症の症状緩和をサポートする選択肢の一つです。医療機関での診断を前提に、それぞれの専門的なアプローチで、日常生活の質を高めることを目指します。

鍼灸院でのアプローチ

鍼やお灸を使って、体のツボを刺激することで、以下のような効果が期待されます。

  • 血行促進
    腰や下半身の血行を改善し、神経への血流不足を和らげます。
  • 痛みの緩和
    鍼が筋肉の緊張を緩め、痛みを感じる神経の働きを抑えることで、痛みの軽減につながります。
  • 筋肉の緊張緩和
    硬くなった腰や足の筋肉を和らげ、神経への圧迫を間接的に減らします。

整骨院でのアプローチ

骨や関節の調整、筋肉への施術を通じて、体のバランスを整え、症状の緩和を目指します。

  • 手技療法
    手を使って、硬くなった筋肉をほぐしたり、関節の動きを良くしたりすることで、腰への負担を軽減します。
  • 物理療法
    電気治療や温熱療法などを用いて、痛みの緩和や血行改善を促します。
  • 姿勢指導
    日常生活における正しい姿勢や、腰に負担をかけない体の動かし方についてアドバイスを受けられます。

当院でのアプローチ

  • 脊柱側筋群へのアプローチ
    脊柱管狭窄症の場合、脊柱側の筋群の「線維化」や「癒着」が強度にみられることがあります。正常組織への再構築を促すために、特殊な器具を使い癒着を除去するための処置を行ないます。
  • 脊柱アライメントへのアプローチ
    脊柱管狭窄症の患者さんの腰椎はズレや歪みなどが起こっていて、それらが腰椎の変形や神経を圧迫することがあります。これらを除去するために腰椎の配列を整えるための処置を行ないます。
  • 運動指導
    日常生活における正しい姿勢や、腰部の可動域を拡げるためのリハビリテーションの指導、アドバイスを行ないます。

注意点

鍼灸や整骨院は、医師の診断や治療に代わるものではありません。まずは整形外科を受診し、適切な診断を受けることが重要です。その上で、医師に相談しながら、補助的な治療として活用することを検討しましょう。

日常生活での注意点・セルフケア

脊柱管狭窄症の症状を緩和し、進行を防ぐためには、日々の生活習慣を見直すことが重要です。

  • 姿勢を正す
    長時間立ったり、座ったりする場合は、こまめに休憩をとり、姿勢を変えましょう。猫背にならないよう、背筋を伸ばすことを意識してください。
  • 適度な運動
    ウォーキングや水泳など、腰に負担をかけにくい運動を無理のない範囲で行いましょう。特にウォーキングは、間欠性跛行の症状を緩和する効果も期待できます。
  • 腰への負担を減らす
    重いものを持つときは、腰だけでなく膝も使って持ち上げましょう。また、腰を冷やさないように注意し、腹巻きなどを活用するのも良いでしょう。
  • 安静時の体位
    寝る時は、横向きになって膝を少し曲げると、腰への負担が軽くなります。
  • 家族のサポート
    ご家族は、患者さんの痛みに理解を示し、無理のない範囲で家事などを手伝うなど、精神的な支えとなることが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q1 脊柱管狭窄症は自然に治りますか?

A1 自然に治ることは稀で、放置すると症状が悪化することがあります。早期に適切な治療やセルフケアを始めることが大切です。

Q2 手術はしたくないのですが、必ず手術が必要になりますか?

A2 すべての患者さんが手術を必要とするわけではありません。まずは保存療法で症状の改善を目指し、効果がみられない場合や、重度の神経症状がある場合に手術が検討されます。

Q3 どんな運動をすればいいですか?

A3 ウォーキングや水中ウォーキング、ストレッチなど、腰への負担が少ない運動がおすすめです。症状がひどい時は無理をせず、医師や理学療法士の指導のもとで行いましょう。

Q4 痛み止めを飲み続けても大丈夫ですか?

A4 痛み止めは一時的な症状緩和に有効ですが、長期的な服用には注意が必要です。医師の指示に従って服用し、根本的な原因に対する治療も並行して行いましょう。

Q5 日常生活で気をつけるべきことは何ですか?

A5 腰に負担をかけない姿勢を心がけ、適度な運動を取り入れましょう。長時間同じ姿勢を避け、重いものを持つ際には注意が必要です。

長引く腰の痛みやしびれに悩む日々から抜け出し、より快適な生活を送るために、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。自分の体の声に耳を傾け、無理のない範囲でできることから始めてみてください。