関節の基礎知識① ~関節の痛みで悩んでおられる方向け~

関節の痛みで困っている時には、まず「関節のこと」を知っておきましょう

関節の図です。

関節というのは、骨と骨との「継ぎ目」の部分ですが、靭帯や軟骨などたくさんの組織によって作られています。
「関節」という言葉を使う時には、それらを含めて指しています。

例えば「関節が腫れてる」という場合、軟骨、靭帯、関節包などを含めてどこかが腫れているということです。

その他、「変形性関節症」とは骨の形が変わってしまった状態ですが、骨だけではなく継ぎ目部分の周りの組織(軟骨、靭帯、関節包、筋肉など)の形も質も変わってしまった状態です。

※ 骨の形が変わってしまった場合「変形」という言葉を使いますが、軟骨、靭帯、関節包、筋肉などの軟らかい組織(軟部組織と言います)の形が変わってしまっている場合には「変性」という言葉を使います。

 

関節構成組織

1.骨

2つの骨が合わさって「継ぎ目」である関節を作っています。
凹の形をした側を「関節窩(かんせつか)」、凸の形をした側を「関節頭(かんせつとう)」と呼びます。

正常であればうまく凹凸の形にお互いがはまり込んで安定しているのですが、軟骨がすり減ってきたり、靭帯がゆるくなったり、骨の変形がみられるようになると関節の適合性が悪くなって安定性が低下します。(関節の動きによってポキポキ鳴ったり、ゴリゴリした感触が出てきたりします。)

骨の表面は「骨膜」という強い膜で覆われており、骨の強度を上げています。
骨自体には神経がありませんが、「骨膜」には神経と血管があります。
骨が折れた時に激しい痛みが出るのは、この「骨膜」が傷つくからです。

2.軟骨

関節を動かす時に、「関節窩」と「関節頭」の摩擦が大きくならないようにしてくれています。
正常であれば軟骨表面はツルツルしていて摩擦がとても小さいのですが、加齢や外力、微細な損傷によって少しずつすり減ってきます。
軟骨の再生はとても難しく(現実的には「ほとんど無い」)、出来るだけ「長持ちさせること」が重要となります。

軟骨にも「神経」や「血管」がありません。
よく、膝の関節などに痛みがある患者さんに「軟骨がすり減っているのが原因です。」という説明がされるのですが、軟骨には神経がありませんので痛みを感じることはありません。(ということは、痛みを感じているのは「軟骨」ではなく変性した他の組織なのです。)

そして「血管が無い」ということは、「再生しない」ということを意味します。
血管が入り込んでいる組織であればそこが傷ついた場合でも、血液が新しい組織を作るための栄養や材料を運んでくれます。しかし、軟骨は傷ついても栄養や材料を運んでくれる血液が流れていないので新しい組織を作ることが出来ません。

※ では「軟骨はどのように栄養されているのか?」ということになるのですが、軟骨に栄養を与えているのは「滑液」という関節の中を満たしている液です。(後述)

軟骨がやっかいなのは、

神経が無い → 傷めても気づかないことが多い → 破壊が徐々に進行する

血管が無い → 傷めても再生しない → 破壊が徐々に進行する

…となることが多いためです。

3.関節包

関節を包んでいる袋です。
袋の中には「滑液」という液体で満たされ、この液は関節がスムーズに動くための潤滑油の役割を果たしています。

関節包は、2層構造になっていて、外側は「繊維膜」、内側は「滑膜」と言います。
「繊維膜」は前述の「骨膜」から続いている膜で、かなり分厚く強くなっています。

「滑膜」は軟らかい膜で、「滑液」を分泌、吸収します。
新鮮な滑液を分泌しつつ、劣化した滑液を吸収し、関節内で滑液は循環しています。

関節内や関節周囲に炎症が起こると、炎症を鎮めるため、炎症による代謝物質を洗い流すために「滑液」の量が一時的に増えます。
炎症が消えると、増えた滑液は滑膜から吸収されて正常の量に戻りますが、炎症が長く続くとどんどん滑液の量が増えてしまい、「関節に水が溜まる」ということになります。

「関節に水が溜まる」と、注射器で水を抜く処置(穿刺)をすることがあります。

よく「水を抜くとクセになる」と言われていますが、水を抜くとクセになるわけではなくて、「水を抜いても炎症が残っている」からまた水が溜まるのです。

4.靭帯

関節を安定させている線維性の組織です。
とても強い「糸の束」をイメージしてもらうと良いでしょう。

「靭帯を痛めた」、「靭帯を伸ばした」とよく言いますが、実はたくさんある糸が「切れた状態」です。

切れた糸の量によって損傷度が変わります。
全部の糸が切れてしまったら「完全断裂」、全部じゃなければ「部分断裂」となります。

靭帯も再生しにくい組織です。
靭帯が切れた場合、ほとんどの場合「元通り」にはなりません。
切れた部分をコラーゲンでくっつけて機能を取り戻そうとします。
(靭帯の修復、機能改善、リハビリなど、詳しくは別記事にて)

5.筋肉

骨と骨にくっついて、「縮む」ことで関節を動かしています。

筋肉も線維状の細胞が集まって、靭帯と同じく「糸の束」のようになっています。
「縮む」ことが出来るので靭帯よりも軟らかい組織です。

(筋肉の働き、損傷、機能改善、リハビリなど、詳しくは別記事にて)

筋肉の「糸の束」が切れてしまったのがいわゆる「肉離れ」です。
「肉離れ」は筋肉が切れてしまった状態ですが、決して珍しいものではありません。

微細な損傷は日常生活でも毎日のように起こっています。
筋肉の細胞は再生能力が高いですし細胞の数も多いので、少しくらい痛めてもあまり「気にならない」だけです。

1000本あるうちの筋肉の線維が(実際にはもっと多いです)、2~3本切れても大丈夫ですが、
500本切れたらかなりの損傷ということです。

6.腱

筋肉の両端で、骨に付着する部分です。
筋肉から組織が少しずつ移行して「腱」になります。

誰もが聞いたことのある「アキレス腱」は、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)が移行して腱になり、かかとの骨にくっついています。
皆さんがご存知の「スジ肉」は、牛のアキレス腱なんですよ。

腱も、筋肉や靭帯と同じように線維状の「糸の束」です。
腱も切れてしまうと、再生能力が低いため元通りにくっつくことが難しいとされています。

カラーイラストなどでは、筋肉は赤色、腱は白色で塗られていますが、これは「筋肉は血管が豊富」で、「腱は血管があまりない」からなんですね。
「血管があまりない」ということは、前述のように血流が少ないということなので「再生能力が低い」ということです。

腱の「糸の束」が全部切れたら「完全断裂」、全部じゃなければ「部分断裂」となります。

(腱損傷、腱の修復、機能改善、リハビリなど、詳しくは別記事にて)

 

関節が痛い時の治療戦略

簡単に「関節」のことをご紹介してきましたが、何となく頭に入っていただけたでしょうか?

「関節」とはひとつの組織で出来ているワケではなく、色々な組織によって構成されています。

ですから、「関節が痛い」と言っても様々で、上記の「どこが痛いのか?」によって治療方針、治療内容が異なります。

そして、単一の組織だけを痛めているのではなくほとんどが複合して痛んでいますから、治療を組み立てていく場合には「最も症状を出しているのはどの組織か?」ということも考えなければなりませんし、再生能力の高い組織と再生能力の低い組織があること、を考慮して治療戦略を考えていく必要があります。

もしかすると、「関節の痛み」でお困りの方の中には、「色々な治療を試してみたけれどなかなか痛みが取れない」という人もいらっしゃるかもしれません。
そういう場合、「どこを痛めていて、どこを治療しているのか?」ということがマッチしていない可能性があります。

そういう方はこの記事を読んで、これまでの治療戦略を見直すための参考にしてみてくださいね。

 

こちらも参考に → 変形性関節症