筋肉が硬くなる理由

正常な筋肉は水分を「72~75%」程度含んでおり、本来は軟らかい組織です。

収縮することで関節を動かすことができます。

しかし様々な要因によって、張ったような硬さや筋張った硬さを持つようになります。

それは正常な反応でもあるのですが、コリ感や痛み、痺れなどを引き起こす場合もあるので注意が必要です。

 

筋肉が硬くなる要因

筋肉の「硬くなる要因」には下記のようなものがあります。

1.加齢

もともと正常な筋肉は水分を「72~75%」程度含んでおり、軟らかい組織です。

しかし、年を取ると筋肉内の水分が減り干からびるように筋萎縮が進み、筋肉が筋張って硬く脆い組織になってきます。

筋委縮に筋細胞の減少(サルコペニア)が合併すると、筋力の低下や脆弱性を引き起こし、

「フレイル※」という状態に陥る可能性が高くなります。

※フレイル フレイルは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。

健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことです。

その他、加齢による要因として「筋肉内脂肪の増加」が報告されています。

筋肉内には筋線維などの「収縮要素」と、収縮することのない「非収縮要素」があります。

「筋肉内脂肪」は収縮することのない「非収縮要素」なので、その割合が増えると筋肉が硬くなります。

 

2.疲労

筋肉を収縮させる際にはエネルギーを使います。

筋肉内のエネルギーが減ったり、筋肉内に乳酸や二酸化炭素などの「疲労物質」が蓄積してくると筋肉は硬くなります。

疲労が回復すると、元のように軟らかい状態に戻りますが、じゅうぶんに回復出来ないと硬い状態が続くことになります。

そして、「疲労」にも色々なパターンがあります。

ひとつめは、マラソンや遠足の山登りなど、筋肉をしっかりと動かした後にみられる疲労です。

このような場合は筋肉を休ませることで回復しますので、あまり心配はいりません。

(症状があるとしても「筋肉痛」くらいで数日で消えていくでしょう)

筋肉内にエネルギーが減っても、動かしたぶん血流があるので血液によってエネルギーは補充されやすいのです。

 

しかし、デスクワークや長距離の自動車運転など同じ姿勢を続けるような「動きが無いのに筋肉を使う」という場合(筋肉の静的収縮と言います)、エネルギーは消費するのですが、筋肉を動かしていないため血液循環が乏しく、血液によるエネルギーの補充が行われにくいため回復に時間がかかります。

もしも、疲労が回復していないのにまたデスクワークや長距離の運転など筋肉の静的収縮を続けていると、どんどん疲労が溜まって筋肉は硬くなっていきます。

そして、筋肉が硬くなると血流が悪くなるため、エネルギーの補充が行われにくくなり回復が遅れる…という悪循環に陥るのです。

血流の悪い状態が長期にわたって続くと、さらに悪い状態を引き起こします。

身体の細胞には寿命があり、一定の期間が過ぎると死滅し、また新しい細胞に生まれ変わります。

(これを「ターンオーバー」と言います)

血流がじゅうぶんであれば、細胞に送られるエネルギーも酸素も栄養も豊富な状態で新しい細胞を作ることが出来るのですが、

筋肉が硬くなって血流が乏しい状態ではエネルギーも酸素も栄養も少ない状態で次の新しい細胞を作らねばならなくなります。

つまり「良い材料が無い状態」で次の細胞を作るわけですから、健康な細胞にはなりにくいということになります。

そういう血流が乏しい状態で作られた筋肉の細胞は、正常の軟らかい細胞ではなく、硬く、脆い細胞になってしまいます。

こういう状態になった筋肉は「線維化」といって、触ると「ゴリゴリ」しています。

「線維化」した筋肉細胞は柔軟性が低下し、伸び縮みしにくいため筋肉内の血流が悪いため「疲労物質」が蓄積し、

鈍重感や痛みを感じるようになります。

 

一般的にはそういう状態を「コリ」と呼んでマッサージやストレッチ体操などで軟らかくしようとしているのですが、

細胞自体が硬くなっているため効果も一時的な場合が多いようです。

根本的に解決するには、軟らかい細胞に生まれ変わらせなければなりません。

(その方法については別記事にて紹介する予定です。)

 

3.緊張

筋肉は安静にしていても一定の緊張度があります。

姿勢を維持するためであったり、何かあってもすぐに動けるようにするためで、これは正常な状態です。

しかし、様々な形で「ストレス」を受けると、筋肉の緊張度がさらに高くなり「こわばった状態」になります。

これは、筋肉を硬くして身体を守ろうとする生理的な「防御反応」のひとつです。

「ストレス」が無くなれば緊張は解かれ、筋肉は軟らかい状態に戻ります。

ですが現代人は「ストレス状態」が長く、常に筋肉が緊張して硬くなっています。

筋肉が緊張して硬くなっている状態が続くと、上述のように筋肉への血流が乏しくなり、

疲労回復は遅れますし「線維化」を起こしやすくなります。

 

※ ストレスによって憎悪しやすいもの(自律神経失調症、うつ、適応障害など)では「筋肉の過緊張」が非常に目立ちます。

こちらの記事を参考に → 肩こり、首こり、腰痛と自律神経失調症、うつ、適応障害

 

4.損傷による「線維化」

筋肉に「打撲」や「肉離れ」、反復負荷による「筋損傷」などの損傷を起こし、その後きれいに元の組織に修復されれば良いのですが、元の組織に再生されずに硬い組織(変性組織)になる場合があります。

 

筋肉が損傷してキズついた場合、そのキズを「コラーゲン」で修復しようとします。

「コラーゲン」とはタンパク質の一種で、筋肉だけでなく髪の毛や爪、内臓なども「コラーゲン」で出来ています。

正常なコラーゲンは、適度に水分を含んでいて軟らかい組織なのですが、

損傷した部をきれいに修復されない場合、硬いコラーゲンになってしまうことがあるのです。

※ 詳しくはこちらへ → 美肌とコラーゲンと肩こり、腰痛

 

「打撲」や「肉離れ」、「筋損傷」などの損傷は、実は特別なことではなく日常的に起こっています。

「微細損傷」と言って、痛みや腫れが目立たないので気づかず、日々起きているんですね。

その「微細損傷」が正常に再生されないことが続き、筋肉内では徐々に「線維化」が起きています。

 

5.軸のズレ

筋肉は骨についています。

もしも骨の歪みが発生すれば、軸がズレるので筋肉の長さが変わります。

筋肉は引き伸ばされると硬くなります。

 

以下、背骨と背中の筋肉を例にしてみます。

 

 

上の図はバランスの取れた人のモデルです。

背骨が真っすぐであれば、左右の筋肉のバランスも良好です。

 

もっとモデル化してみると下の図のようになります。

黄色い矢印点線を「背骨」に見立て、左右の赤線は付着している「筋肉」を表しています。

軸が真っすぐならば左右の筋肉も同じ長さになりますので、筋肉の緊張度は同じです。

 

 

軸がずれた状態(歪んだ状態)は下の図のようになります。

軸の位置がずれると左右の「辺」の長さが変わります。

この図では軸の位置が右にずれる事によって、左の「辺」が長くなります。

 

左の「辺」を筋肉とするならば、この場合は筋肉が引き伸ばされることになります。

筋肉は引き伸ばされると「緊張」しますので、軸が元の位置(正常な位置)に戻らない限り

常に「緊張」した状態になり、筋肉は硬くなってしまうということになります。

 


このように、様々な原因で筋肉が硬くなると、いわゆる「肩こり」や「首こり」、「慢性的な腰痛」などの症状を出すこともあります。

それだけではなく、硬くなった筋肉は伸び縮みしにくいため、肉離れなどのケガを起こしやすくなったり、関節の動きが悪くなって傷めやすかったり、神経を締めつけて痺れや痛みの原因となったりすることもあります。

 

筋肉の硬さは上記のような「加齢」、「疲労」、「緊張」が混在しているケースがほとんどです。

上述のように「線維化」した筋肉は、そのままでは元の健康な細胞には戻りません。

元に戻すためには、局所にじゅうぶんな「血流」が必要となるため、

適度な運動や適切な休息、身体をリラックスさせることやタンパク質を中心とした食生活など、

日常生活習慣をあらためることで改善は期待できます。

 

しかし、長期化したものや線維化の強いものなどは、生活習慣を変えたくらいでは元に戻らないものもあり、

その場合には細胞の入れ替わりを促すための治療が必要となるものもあります。


「筋肉が硬くなる理由」をご紹介しましたが、実際には理由はひとつだけではなく複数が絡み合っています。

これらを丁寧に解いていかなければ完治するのは難しいでしょう。

まずは「現状」を把握して、改善の方法をみつけていくようにしましょう。

 


参考: 小川大輔. ファシア (fascia) に対する徒手理学療法―Fascial Manipulation の理論と実践―. 運動器理学療法学, 2022, 2.Supplement: S38-S38.

 

参考: