フレイル・サルコペニア・プレサルコペニアとは?自分でできるチェックと対策を解説

2025.04.17

はじめに

「最近、なんだか疲れやすい」「以前は楽にできていたことが、今は少し大変…」と感じることはありませんか?年齢を重ねるにつれて、体の機能が徐々に低下していくのは自然なことですが、その度合いが過度になると、日常生活に支障をきたす可能性があります。

近年、健康寿命を延ばす上で注目されているのが、「フレイル(虚弱)」、「サルコペニア(筋肉減少症)」、そしてその前段階である「プレサルコペニア」という状態です。これらは、高齢者だけでなく、実は若い世代にも関係する可能性があり、早期に気づき対策を講じることが、健康で自立した生活を送るために非常に重要です。

この記事では、フレイル、サルコペニア、プレサルコペニアについて、患者さんご自身が理解しやすいように、それぞれの定義、原因、症状、そしてご自身でできる簡単なチェック方法、具体的な予防・改善策を詳しく解説します。

フレイル、サルコペニア、プレサルコペニア:それぞれの定義と関係性

まずは、フレイル、サルコペニア、プレサルコペニアという3つの言葉が、それぞれどのような状態を指すのか、そして互いにどのような関係があるのかを見ていきましょう。

フレイル(虚弱)とは?

フレイルとは、加齢に伴い、体の様々な機能(筋力、持久力、バランス能力、認知機能など)が低下し、ストレスに対する抵抗力が弱くなった状態を指します。例えるなら、長年乗り続けた車が、あちこちガタがき始めて、ちょっとしたことで故障しやすくなるようなイメージです。フレイルの状態になると、転びやすくなったり、病気にかかりやすくなったり、日常生活を送る上でサポートが必要になるリスクが高まります。

サルコペニア(筋肉減少症)とは?

サルコペニアは、筋肉の量(筋肉量)と質が加齢とともに低下していく現象で、特に筋肉量の減少が顕著な状態を指します。筋肉は、体を動かすだけでなく、基礎代謝を維持したり、骨を支えたり、血糖値を調整したりと、様々な重要な役割を担っています。サルコペニアが進行すると、筋力低下や身体機能の低下を招き、フレイルの主要な原因の一つとなります。

プレサルコペニアとは?

プレサルコペニアは、サルコペニアの前の段階、つまり筋肉量は減り始めているものの、まだ筋力や身体機能の低下が明らかになっていない状態を指します。この段階で適切な対策を講じることで、サルコペニアへの進行を遅らせたり、防いだりすることが可能です。早期発見と早期介入が非常に重要な時期と言えるでしょう。

3つの関係性:段階的な進行

これらの3つの状態は、多くの場合、プレサルコペニアから始まり、サルコペニアへと進行し、最終的にフレイルの状態へと繋がっていくと考えられています。もちろん、全ての方がこの順番で進行するわけではありませんが、筋肉量の低下(プレサルコペニア、サルコペニア)は、体の脆弱性(フレイル)を高める大きな要因となります。

なぜフレイルとサルコペニアが重要なのか?早期発見のメリット

フレイルやサルコペニアは、進行すると日常生活の質を著しく低下させる可能性があります。例えば、ちょっとした段差で転倒しやすくなり骨折のリスクが高まったり、風邪をひいてもなかなか治りにくくなったり、外出するのが億劫になったりすることがあります。

しかし、早期にこれらの状態に気づき、適切な対策を講じることで、進行を遅らせたり、改善したりすることが可能です。早期発見のメリットは非常に大きく、以下のような点が挙げられます。

  • 健康寿命の延伸: 健康で自立した生活を送れる期間を長く保つことができます。
  • 生活の質の維持: 趣味や外出など、活動的な生活を長く楽しむことができます。
  • 介護予防: 将来的に介護が必要になるリスクを減らすことができます。
  • 医療費の抑制: 健康状態を維持することで、医療費の負担を軽減できる可能性があります。

筋肉量と機能は、健康寿命を左右する重要な要素です。早期に変化に気づき、積極的に対策を行うことが、より健康的で活動的な人生を送るための鍵となります。

フレイルとサルコペニアの主な原因とリスク要因

フレイルとサルコペニアは、様々な要因が複雑に絡み合って起こります。主な原因とリスク要因を見ていきましょう。

  • 加齢: 年齢を重ねるにつれて、筋肉を作る能力が低下し、筋肉量が自然と減少していきます(サルコペニア)。また、体の様々な機能が低下し、ストレスに対する抵抗力が弱まります(フレイル)。
  • 運動不足(身体活動量の低下): 筋肉は使わないと徐々に衰えていきます。運動不足の状態が続くと、筋肉量の減少が加速し、筋力や持久力も低下します。
  • 栄養不良: 筋肉を作るためには、十分なタンパク質の摂取が不可欠です。高齢になると食欲不振や消化吸収能力の低下などから、タンパク質摂取量が不足しがちになり、筋肉量の減少を招きます。また、ビタミンDなどの栄養素の不足も、筋力低下に関与することが知られています。
  • 慢性疾患: 糖尿病、心臓病、腎臓病、がんなどの慢性疾患は、筋肉の減少や機能低下を引き起こす可能性があります。炎症や代謝異常などが、筋肉の合成を阻害したり、分解を促進したりすることがあります。
  • その他の要因: ホルモンバランスの変化(特に男性ホルモンの低下)、酸化ストレスの増加、社会的な孤立や抑うつなども、身体活動量の低下や食欲不振に繋がり、フレイルやサルコペニアのリスクを高める可能性があります。

自分でできるフレイル・サルコペニアのチェック方法

早期にフレイルやサルコペニアの兆候に気づくために、ご自身でできる簡単なチェック方法をいくつかご紹介します。

握力テスト

握力は、全身の筋力と関連性が高いと言われています。もし可能であれば、市販の握力計を使って測定してみましょう。

  • 方法: 椅子に座り、肘を90度に曲げた状態で、左右の握力をそれぞれ2回ずつ測定します。良い方の記録を採用します。
  • 目安: 一般的に、男性で26kg未満、女性で18kg未満の場合は、筋力低下の可能性があるとされています。ただし、これはあくまで目安であり、年齢や性別によっても異なります。

椅子立ち上がりテスト(5回立ち上がりテスト)

脚の筋力を簡単にチェックする方法です。

  • 方法: 肘掛けのない椅子に座り、両腕を胸の前で組みます。合図に合わせて、できるだけ速く5回立ち上がり、また座るまでの時間を計測します。
  • 目安: 一般的に、10秒以上かかる場合は、脚の筋力低下の可能性があるとされています。

歩行速度テスト

普段の歩く速さをチェックすることで、全身の機能低下の兆候を知ることができます。

  • 方法: 普段歩く速さで、平坦な道を数メートル(4〜6メートル程度)歩き、その時間を計測します。
  • 目安: 一般的に、1メートルあたり1秒以上かかる場合や、0.8メートル毎秒を下回る場合は、歩行速度が遅いとされています。

ふくらはぎ周囲径(わっかテスト)

指で輪を作り、ふくらはぎの太さを測る簡単な方法です。

  • 方法: 両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分を軽く囲んでみます。
  • 目安: 輪を作った際に、ふくらはぎに隙間ができる場合は、筋肉量が少ない可能性があります。

簡単な質問票(フレイルチェックリスト例)

以下の質問に「はい」か「いいえ」で答えてみましょう。

  • この6ヶ月間で、意図せずに2〜3kg以上の体重が減りましたか?
  • 最近、わけもなく疲れたように感じますか?
  • 普段の歩く速さが遅くなったと感じますか?
  • 以前は楽に持ち上げられたものが、今は重く感じますか?
  • 週に数回以上、軽い運動や体操をしていますか?(「いいえ」の場合)

これらの質問に複数「はい」と答えた場合は、フレイルの兆候がある可能性があります。

日常生活での観察ポイント

上記以外にも、日常生活の中で以下のような変化に気づいたら、注意が必要です。

  • 階段を上るのが以前より辛くなった
  • 横断歩道を青信号で渡りきれないことがある
  • ちょっとしたことで転びそうになる
  • ペットボトルの蓋が開けにくいなど、握力が弱くなったと感じる
  • 以前は楽にできていた家事が、今は負担に感じる

医療機関での診断方法

ご自身でのチェックで気になる点があった場合は、医療機関を受診し、専門的な検査を受けることをお勧めします。医療機関では、以下のような方法でフレイルやサルコペニアの診断が行われます。

  • 問診と身体診察
  • 握力測定(専用の機器を使用)
  • 歩行速度測定
  • 身体組成測定(筋肉量や体脂肪率などを測定)
  • 血液検査(栄養状態や慢性疾患の有無などを確認)

フレイル・サルコペニアの予防と改善策

フレイルやサルコペニアは、適切な対策を行うことで予防や改善が可能です。

適切な運動習慣

  • 筋力トレーニング(レジスタンス運動): 筋肉量を増やし、筋力を維持・向上させるために非常に重要です。スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操など、無理のない範囲で регулярныйに行いましょう。
  • 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳などは、全身の持久力を高め、心肺機能を向上させる効果があります。
  • バランス運動: 片足立ちや、椅子に座った状態での足踏みなど、バランス感覚を養う運動は、転倒予防に繋がります。

バランスの取れた栄養摂取

  • 十分なタンパク質の摂取: 筋肉の材料となるタンパク質を毎食しっかりと摂ることが大切です。肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などを積極的に摂取しましょう。
  • ビタミンDの摂取: ビタミンDは、筋肉の機能維持に役立ちます。日光浴や食事から意識して摂取しましょう。
  • バランスの良い食事: 炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルもバランス良く摂取し、健康的な食生活を心がけましょう。

社会参加と精神的な健康

  • 積極的に社会活動に参加する: 地域活動や趣味の会などに参加し、他人との交流を持つことは、心身の健康維持に繋がります。
  • 精神的な健康を保つ: ストレスを溜め込まず、適度に発散するよう心がけましょう。必要であれば、専門家への相談も検討しましょう。

定期的な健康チェック

定期的に健康診断を受け、体の状態を把握することが大切です。気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。

その他

  • 質の高い睡眠を確保する
  • 慢性疾患を適切に管理する
  • 禁煙、節酒を心がける

おわりに

フレイル、サルコペニア、プレサルコペニアは、誰にでも起こりうる可能性があります。しかし、早期に気づき、適切な対策を講じることで、健康寿命を延ばし、より長く活動的な生活を送ることができます。この記事でご紹介したセルフチェック方法を参考に、ご自身の体の状態を把握し、健康的な生活習慣を今日から始めてみませんか?もし気になることがあれば、遠慮なく当院へご相談ください。