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中高年世代に忍び寄る関節の痛み ~その原因と仕組みを解説~
「立ち上がる時に膝が痛い」「階段の昇り降りがつらい」
もしあなたがそう感じているなら、それは変形性関節症の初期症状かもしれません。中年期以降になると、私たちの体は加齢とともにさまざまな変化を経験し、その一つとして関節の悩みを抱える人が増えてきます。
この記事では、関節痛に悩む方がご自身の体の仕組みを深く理解できるよう、まず健康な関節がどのような組織でできているのか、そしてなぜ変形性関節症が起こるのかを分かりやすく解説します。
健康な関節の基本構造と役割
関節は、骨と骨をつなぎ、私たちの体を滑らかに動かすための重要な役割を担っています。このスムーズな動きは、精密な部品が組み合わさった機械のように、さまざまな組織が連携して初めて可能になります。
関節軟骨
関節軟骨は、骨の端を覆う、白く滑らかな弾力性のある組織です。その主成分はコラーゲン繊維と、水分を豊富に含むプロテオグリカンで、この複雑な構造がまるで高機能なスポンジのように衝撃を吸収します。関節軟骨があることで、骨同士が直接こすれ合うのを防ぎ、歩行や運動時の衝撃を効果的に和らげることができるのです。
関節包と滑膜
関節全体を包み込み、内部の組織を保護しているのが関節包です。この関節包の内側は滑膜という薄い膜で覆われています。滑膜は、関節の動きを滑らかにする潤滑油である滑液を分泌する役割があります。滑液は、軟骨がスムーズに動くために欠かせない存在です。
滑液
関節包の内側にある空間(関節腔)を満たしているのが滑液です。この滑液は単なる潤滑油ではありません。血管がない関節軟骨にとっては、滑液が唯一の栄養源となります。関節を動かすことで滑液が軟骨に行き渡り、栄養を供給するという、非常に重要な役割も担っているのです。
靭帯
骨と骨を強固につないでいるのが靭帯です。靭帯は関節が正しい位置で安定して動くようにサポートし、過度な動きやねじれを制限する役割があります。これがなければ、関節は簡単に脱臼してしまうでしょう。
半月板・関節円板
膝関節の半月板や顎関節の関節円板など、特定の関節に存在する三日月型や円盤状の線維軟骨です。半月板は、大腿骨と脛骨の間のクッションとして衝撃を吸収するだけでなく、骨の形の違いを埋めて関節の適合性を高めることで、安定性を向上させています。
筋肉と腱
関節を動かす「動力源」となるのが筋肉です。筋肉の力は腱という丈夫な組織を介して骨に伝わります。関節の周囲にある筋肉は、関節を動かすだけでなく、その安定性を保つ上でも欠かせない存在です。特に膝関節は、太ももの筋肉(大腿四頭筋)が強力なサポーターとして機能しています。
変形性関節症はなぜ起こるのか
変形性関節症は、上記のような精密な関節の仕組みが、長年の使用や負荷によって徐々に破綻していくことで進行します。そのメカニズムは、まさに悪循環の連鎖です。
変形性関節症の主なリスク要因
発症には、以下のような複数の要因が関係しています。
- 加齢
年齢を重ねることで、軟骨の水分量が減少し、弾力性が失われます。 - 肥満
体重が増えるほど、関節、特に膝や股関節にかかる負担が大きくなります。 - 遺伝
体質的に軟骨がすり減りやすい、あるいは骨格の形が変形しやすい人もいます。 - 過去の怪我
半月板の損傷や靭帯の断裂といった過去の怪我が、将来の変形性関節症のリスクを高めます。 - 性別
女性は男性よりも変形性関節症になりやすい傾向があります。
進行のメカニズム
変形性関節症は、以下の段階を経て徐々に進行していきます。
1. 関節軟骨の損傷と消失
病気はまず関節軟骨の損傷から始まります。長年にわたる負荷によって、軟骨は少しずつすり減り、表面がひび割れたり、欠けたりします。車のタイヤがすり減っていくのと似ています。軟骨がなくなると、クッションを失った骨同士が直接こすれ合うようになり、この摩擦が強い痛みの原因となります。
2. 滑膜の炎症と関節水腫
すり減った軟骨の破片が関節腔内に浮遊すると、それを異物とみなした滑膜が刺激され、炎症(滑膜炎)を起こします。炎症が起こると、滑液が過剰に分泌され、関節に水がたまる「関節水腫」の状態になります。この水は炎症性物質を含み、潤滑作用も低下しているため、関節の動きをスムーズにすることはありません。
3. 靭帯や半月板への影響
関節軟骨がすり減ってクッションがなくなると、関節はぐらつき、不安定になります。この不安定な状態を支えようと、靭帯や半月板に無理な力がかかり続けます。結果として、靭帯が緩んだり、半月板が損傷したりして、関節の不安定性はさらに悪化します。
4. 筋肉や腱の損傷と炎症
関節に痛みや動かしにくさが出てくると、人は無意識に関節をかばい、動かさないようになります。すると、関節を支える周囲の筋肉が弱まります。特に太ももの筋肉が弱ると、関節への負担がさらに増大し、症状の悪循環に陥ります。弱った筋肉は関節を安定させることができず、腱にも過度な負荷がかかり続けることで、損傷や炎症を起こすこともあります。
5. 骨の変形と骨棘の形成
軟骨がすり減って骨がむき出しになると、骨同士が直接こすれ合います。この刺激によって、骨の表面が硬くなったり、トゲのような突起(骨棘)ができたりします。骨棘は関節の動きをさらに妨げ、痛みを増強させます。
まとめ
関節痛は、加齢や日々の負荷によって関節を構成する様々な組織が少しずつ損傷し、炎症を起こすことで引き起こされます。一つの組織の損傷が他の組織へも悪影響を及ぼし、悪循環となって症状を進行させるのが変形性関節症の特徴です。
もしも関節に痛みや不安な点があれば、出来るだけ早めに当院へご相談ください。
関節の痛みは生活の質を大きく低下させます。ご自身の関節がどのような状態にあるのかを理解することが、今後の向き合い方を考える上で大切な一歩となるでしょう。
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