首の筋肉のコリから起こる「うつ」 ~「頚性うつ」とはどんなものですか?~

首の筋肉の異常から起こる「頚性うつ」、「頚性神経筋症候群」とはどんな病気ですか?

「頚性うつ」とは、頚部の筋肉の異常によって起こる症状が引き金となって発症する「うつ」のことです。

筋肉の異常から発症する場合もあれば、自律神経失調症状などが合併して発症するものもあります。

 

下の図をご覧ください。

 

首の筋肉の疲労、過度の緊張や筋肉の癒着、線維化が起こると首こり、肩こりの症状がみられるようになります。この時点では単なる「首こり」「肩こり」です。

 

しかし、こりが強度にあらわれたり長期に及ぶと自律神経系に異常(交感神経と副交感神経のバランスが崩れる)が起こり自律神経失調症状があらわれるようになります。(頚性神経筋症候群)

 

そして、首こり、肩こりなどの不快症状と自律神経失調症状による苦痛がさらなる精神的ストレス、心理的負担となって「うつ症状」がみられるようになったものが「頚性うつ」なのです。

 

「頚性神経筋症候群」とはどんな病気ですか?

頚性うつの前段階と考えられる「頚性神経筋症候群」について説明します。

 

こりの症状が強い方は経験があると思いますが、肩こりや首こりなどの症状が強くなると、単なる「筋肉の症状」だけでなく、全身の倦怠感や頭痛など「こり症状以外の症状」が出てくるようになります。

こり症状以外症状の例としては、緊張型頭痛、めまい、倦怠感、易疲労感、慢性的な疲労感、微熱、不眠や、冷や汗が出る、動悸、血圧が不安定、立ちくらみ、耳鳴り、吐き気、胃痛、胃もたれ、下痢、便秘、頻尿などの自律神経失調症状があります。

肩こり、首こりが原因となって、上記のような自律神経失調症状がみられるようになったものは「頚性神経筋症候群」と呼ばれます。

これまで原因不明と言われてきた自律神経失調症の多くが、首の筋肉の異常から起こる「頚性神経筋症候群」ではないかと考えられるようになってきています。

他にも「頚性神経筋症候群」から起こると考えられているものに、パニック障害、ムチウチ、更年期障害、慢性疲労症候群、ドライアイ、多汗症、不眠症、機能性胃腸症、過敏性腸症候群、機能性食道嚥下障害、血圧不安定症、VDT症候群、ドライマウス、便秘症、起立性調節障害などがあります。

 

「頚性うつ」とはどんなものですか?

肩こり、首こりはつらいものです。

そこに、頭痛や吐き気、めまいなどの自律神経失調症状が合併すれば苦痛はさらに強くなるでしょう。

 

肩こり、首こりなどのこりの症状、自律神経失調症状など「不快な症状」が精神的ストレスとなり、そこから情緒不安定、不安感、焦燥感、被害妄想、うつ状態などの精神的症状がみられるようになったものは「頚性うつ」と呼ばれ、肩こりや首こりから起こることから「首からうつ」、「首こりうつ」という認識が広がりつつあります。

 

これまでにも「肩こり、首こり症状」と「自律神経失調症状」と「精神的症状」には何らかの関係があると考えられてきましたが、脳外科医の松井 孝嘉先生(東京脳神経センター理事長)が発見、報告し、現在でも研究が進められています。

 

下の図は、姿勢による首こり(首の筋肉の過緊張)と猫背やストレートネックなど不良姿勢から起こる自律神経圧迫の様子です。

パソコン作業、スマホ、デスクワークによる首への負担、猫背やストレートネックなど首に負担のかかりやすいものは、頚性神経筋症候群、頚性うつなどの大きな原因であると松井先生は警鐘を鳴らしておられます。

 

 

頚性うつ、頚性神経筋症候群の症状にはどんなものがありますか?

首の筋肉の異常から起こる症状は多岐にわたります。

強い首コリ、肩コリ、腰の痛み・だるさなど、筋肉を主体とした症状に以下のような「自律神経失調症状」が合併している場合、頚性神経筋症候群の可能性が高いと考えられます。

●自律神経失調症状の例: 眼精疲労(目の疲れ)、頭ののぼせ、不眠、めまい、吐き気、血圧不安定、繰り返す微熱、よく冷や汗が出る、動悸、息切れ、など

さらに、以下のような「精神症状」やうつの際にみられる症状が合併する場合には「頚性うつ」が考えられます。

●精神症状の例: 集中力の低下、意欲の低下、気分の落ち込み、何をしても楽しめない、慢性的な疲労感、身体のこばわり、噛み締め癖、身体に力が入らない、食欲がない、など

 

 

「首こり、肩こりの症状」、「自律神経失調症状」、「精神症状」の3つが重なってくると、各々の症状がさらなるストレスとなります。

そして、そのストレスがさらに他の症状を悪化させていくという悪循環に陥りがちになります。

このような状態に陥ると、「どんなことをすれば良くなるのか分からない」、「何科の病院に行けばよいのか分からない」など、お困りの方が多くいらっしゃいます。

「頚性うつ」の患者さんの症状と、脳システムのトラブルと考えられている「うつ病」の症状に大きな違いはないため区別が難しく、同じような治療で対応されているようです。

しかし、首の筋肉の異常から起こる「頚性うつ」の方の場合には、異常のある頚部の筋肉への治療を行うことで改善がみられるのが特徴とされています。

 

( こちらの記事で治療法の例をご紹介しています。合わせてお読みください。

 → 頚性神経筋症候群、頚性うつを治すにはどうしたら良いですか? ~治療法の例~ )

 

頚性うつ、頚性神経筋症候群を改善するにはどうすれば良いでしょうか?

頚性うつ、頚性神経筋症候群の症状は、大きく分けて以下の3つです。

  1. 1.首の筋肉の過緊張、コリからくる凝り感、鈍重感、痛み
  2. 2.自律神経バランスの乱れから起こる自律神経失調症状
  3. 3.不快症状とそれに伴うストレスにより増強される精神症状

 

この3つの症状は比率の差はありますが、ひとりの患者さんに全ての症状があらわれてきます。そしてどの症状が最も強くあらわれてくるか?には個人差があります。

頚性うつ、頚性神経筋症候群を改善させていくには、「過緊張、コリの症状」、「自律神経失調症状」、「精神症状」の3つに対してバランスよく適切に対処していかなければ、なかなか改善がみられません。

頚性うつ、頚性神経筋症候群は基本的には「首の筋肉の過緊張、コリ」から始まりますから、初期であれば「過緊張、コリ」をやわらかくする、ほぐす、ゆるめる、ということで改善します。

(※適度な運動は効果が出ると考えられます。運動することで硬くなった首の筋肉をやわらかくすることができるので、首こり、肩こりの症状の緩和が見込まれます。)

 

しかし、自律神経失調症状を含めた不定愁訴が大きなストレスとなってしまっていたり、そのストレスがさらに筋肉の過緊張を起こしてさらに症状を悪化させているような「悪循環」がみられる場合には、コリをほぐすだけでは十分に改善がみられないことがあります。

ですから、上記の3つの症状のうち一つに対してのみ治療を行なうということに固執せず、適切なバランスで治療を組み合わせていくことが必要です。

 

頚性うつ、頚性神経筋症候群を改善する3つのポイント

1.じゅうぶんに睡眠を取る

筋肉のコリの原因の一つは疲労です。睡眠不足では疲れが取れず、コリを強くしていきます。

睡眠不足では、脳の疲労も蓄積し、脳を含めた自律神経系のバランスが崩れてしまいます。

肉体的な疲労と脳や自律神経の疲労が蓄積されていると、精神的な疲労も回復しません。

心身共に疲労をためないようにするために、しっかりと質の良い睡眠を取るようにしましょう。

 

2.適度な運動

硬くなった筋肉をやわらかくするには適度な運動が最も効果的です。

身体を動かして筋肉内の血流を改善し、凝り固まった筋肉内の疲労物質を洗い流してしまいましょう。

頚性うつ、頚性神経筋症候群の人は、筋肉の過緊張、こわばりが強くあらわれていますので、リラックスできる運動(ヨガ、太極拳、ウォーキングなど)の方が効果的です。

 

3.ストレスコントロール

残念ながらストレスは無くなりません。しかし、減らすことは出来ます。

別記事で「認知行動療法」を応用したストレスコントロールをご紹介しています。

 

→ 頚性うつを改善させる方法 ~認知行動療法的生活習慣改善法~

 

 

強度のこり症状、自律神経失調症状、精神症状が合併した「頚性うつ」は、首の筋肉をやわらかくすることで改善が期待できます。

筋肉をリラックスさせて過緊張をやわらげ、疲労をため過ぎない生活習慣を心がけていくようにしましょう。

 

※ こちらの記事では症状に合わせた自己養生法をご紹介しています。お読みになって参考にしてみてください。

→ 頚性うつ、頚性神経筋症候群を改善するために「自分で出来ること」

 


「頚性うつ」、「頚性神経筋症候群」については、以下の記事も合わせてお読みください。

→ 「頚性神経筋症候群」とはどんな病気ですか?

 

こちらの記事では、当院で行なっている治療法の例をご紹介しています。

→ ストレスからくる頚性うつへの治療法 ~物理的ストレスからくる症状を取り除く~