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運動と妊娠率の関係性
運動と妊娠率の関係は、単に「運動が良い」という単純なものではなく、運動の種類、強度、そして個人の身体的状況によって複雑に変化します。このテーマは、生殖医療の分野で継続的に研究されており、最新のエビデンスは、適度な運動が妊娠率の向上に寄与する一方で、過度な運動は逆効果となりうることを示唆しています。
1. 適度な運動が妊娠率に与えるプラスの効果
適度な運動は、妊娠を希望する女性にとって多くの生理学的メリットをもたらします。これらのメリットは、生殖機能を直接的および間接的に改善する可能性があります。
1.1 体重管理とホルモンバランスの改善
体外受精(IVF)などの不妊治療を受けている女性を含む、妊娠を希望する女性にとって、適切な体重は非常に重要です。肥満は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの排卵障害のリスクを増加させ、妊娠率を低下させることが知られています。過体重や肥満の女性を対象とした研究では、運動と食事療法を組み合わせた介入プログラムが、体重減少とインスリン抵抗性の改善をもたらし、その結果として自発的な排卵を促進し、妊娠率を向上させることが示されています。
さらに、運動はストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを下げ、エンドルフィンの分泌を促進します。これにより、精神的なストレスが軽減され、生殖ホルモンのバランスが整いやすくなります。慢性的なストレスは、視床下部-下垂体-卵巣軸(HPO軸)に悪影響を及ぼし、排卵を阻害することがあります。適度な運動は、この軸の正常な機能をサポートし、健康な生殖サイクルを維持する上で重要な役割を果たします。
1.2 血流の改善と子宮内膜の環境整備
ウォーキング、ジョギング、ヨガといった有酸素運動は、全身の血流を改善します。この血流の改善は、特に子宮や卵巣への血液供給を増加させる点で重要です。子宮内膜は、受精卵が着床するための「ベッド」となる部分であり、十分な血流と栄養供給が健全な内膜の形成に不可欠です。複数の研究で、運動が子宮動脈の血流を改善し、子宮内膜の厚さを増す可能性があることが報告されています。
また、運動は、卵胞の発育に必要な栄養素やホルモンを卵巣に効率的に運ぶのを助けます。これにより、卵子の質が向上する可能性も示唆されています。子宮内膜の環境が整い、卵子の質が向上することは、自然妊娠および不妊治療の成功率を高める上で極めて重要な要素です。
2. 過度な運動が妊娠率に与えるマイナスの影響
一方で、運動は量や強度を誤ると、妊娠を妨げる要因にもなり得ます。特に、プロアスリートや極端なダイエットを行う女性に見られる過酷な運動は、生殖機能に深刻な悪影響を及ぼすことがあります。
2.1 運動性無月経とホルモン異常
過度の運動は、体脂肪率を極端に低下させることがあります。体脂肪は、女性ホルモンであるエストロゲンの合成に不可欠な役割を果たします。体脂肪率が低すぎると、エストロゲンの分泌が減少し、その結果、排卵が停止し、無月経(運動性無月経)を引き起こす可能性があります。これは、視床下部が身体を「飢餓状態」と認識し、生殖機能を一時的に停止させる防衛反応です。
さらに、激しい運動は、コルチゾールや成長ホルモンといったストレス関連ホルモンの分泌を過剰に促します。これらのホルモンは、生殖ホルモンであるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の分泌を抑制し、結果としてFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)の分泌にも影響を及ぼします。これにより、卵胞の発育が阻害され、排卵が起こりにくくなります。
2.2 酸化ストレスと卵子の質の低下
激しい運動は、体内で大量の活性酸素を発生させ、酸化ストレスを引き起こす可能性があります。酸化ストレスは、細胞やDNAに損傷を与え、特に卵子の質に悪影響を及ぼすことが懸念されています。卵子のDNA損傷は、受精率の低下や初期胚の発育不全につながる可能性があります。
3. 推奨される運動の種類と量に関するエビデンス
では、具体的にどのような運動を、どれくらいの量で行うのが適切なのでしょうか。研究に基づくと、妊娠を希望する女性にとって最適な運動は、無理なく継続でき、心拍数を穏やかに保つことができるものです。
- 推奨される運動の種類は、ウォーキング、ヨガ、ピラティス、軽めのジョギング、スイミング、サイクリングなどが挙げられます。これらの運動は、心臓に過度な負担をかけず、血流を改善し、筋肉を強化する効果があります。特に、ヨガやピラティスは、骨盤周辺の血流を改善し、リラックス効果も高いため、妊活中の女性に人気があります。
- 推奨される運動量は、一般的には、週に150分の中強度の有酸素運動(例えば、早歩きを毎日30分)が推奨されています。運動の強度は、息が少し弾む程度、会話はできるが歌うのは難しいと感じるレベルが目安となります。
- 避けるべき運動は、激しいHIITトレーニングや長時間の高強度ランニング、腹部に強い圧力がかかる筋力トレーニングなどです。特に、卵巣刺激中や採卵後など、不妊治療の特定の期間は、医師の指示に従い、運動を控えることが推奨されます。
4. まとめ
運動と妊娠率の関係は、単純な因果関係ではなく、個人のライフスタイルや健康状態に深く根ざしたものです。適度な運動は、肥満の改善、ホルモンバランスの調整、血流の促進といった多角的なアプローチで妊娠率を向上させる可能性があります。しかし、過度な運動は、逆に生殖機能に悪影響を及ぼすため、バランスが重要です。
現在の不妊治療クリニックや専門家は、単に治療を行うだけでなく、患者の生活習慣全体をサポートすることの重要性を認識しています。運動は、栄養、睡眠、ストレス管理と並んで、健康な生殖機能を維持するための重要な柱の一つです。
「忙しくて運動なんか出来ない」とあきらめず、日常生活の中に出来る範囲で運動を取り入れるようにしてみましょう。
当院では不妊治療中の方への「日常生活習慣指導」に注力しております。どのような運動をすればよいか、ストレスコントロールの仕方など、お悩みの方はご相談ください。
【当院での治療について】
当院では不妊治療中の方向けに、「初回無料カウンセリング」を行なっております。
カウンセリングの際に、現在の心身の状態、不妊治療の方向性などを確認し、当院で行なえる治療法についてご呈示させていただきます。
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